ピルに関するQ&A
もともとピルは錠剤のことですが、一般的にピルと呼ばれているのは、OC(Oral Contraceptives)低用量経口避妊薬のことで、現在ではエストロゲン量が低いために、低用量ピルと呼んでいます。
一方、月経困難症などの治療薬としてのLEP(Low dose Estrogen Progestin)は、成分は低用量ピルと同じで、保険適用が認められている、いわゆる保険のきくピルです。
OCは公的医療保険の対象ではありません。
POINT
- OC(経口避妊薬)は避妊を目的に自費で購入するピル
- LEPは月経困難症や子宮内膜症などの疾患の治療目的として保険で処方されるピル
処方について
子宮頸がんの検診など、最低でも年に1回は婦人科検診を受けましょう。
2回目以降の処方希望時は、予約は必要ありません。受付時間内にお越しください。ただし、いったん服用を中止している方が服用再開を希望されるときには診察が必要となる場合があります。その場合は診察の予約をさせていただきます。
- 初経発来前、50歳以上または閉経後
- 35歳以上で1日15本以上の喫煙者
- 重症の高血圧症
- 血管病変を伴う糖尿病
- 心血管疾患の危険因子(高齢、喫煙、糖尿病、高血圧など)を伴う脂質代謝異常
- 妊娠または妊娠している可能性のある方
- 産後4週間以内
- 授乳中
- 手術前4週間以内、手術後2週間以内、および長期安静状態である方
(手術とは45分以上の手術を言います) - 心臓弁膜症、心疾患
- 重篤な肝障害、肝腫瘍
- 前兆を伴う片頭痛のある方
- 乳がん患者
- 血栓性素因のある方
- 抗リン脂質抗体症候群
- 診断の確定していない異常性器出血
- OCで以前アレルギーのあった方
- 妊娠中に黄断、持続性掻痒症または妊娠ヘルペスの既往歴のある方
などです。詳しくは、医師にご相談ください。
副作用について
詳細
ピルの種類によっては多少むくみが出て体重が増えることがありますが、1~2か月で自然とむくみが落ち着くことがほとんどです。また、ピルを服用すると生理痛や月経前症候群が落ち着くので身体の調子が良くなって結果的に食欲も増進するために食べ過ぎて太ることもあるようです。すなわち“ピルを服用している=太る”ではありません。最近の研究でもピルを服用している人が有意に体重増加するという結果は出ていません。(OC・LEPガイドライン2020年度版より)
個人差はありますが、吐き気・頭痛・めまい・乳房が張る・不正出血・憂うつ感などの症状が出る場合があります(マイナートラブルと呼びます)。これらの症状は、2~3ヶ月でほぼ治まります。まずは3か月継続して服用してみて、それでも症状がおさまらない場合、どうしても副作用が耐えられない場合は自分で判断して中断せずに1度ご相談ください。薬の種類の変更などの相談させていただきます。命にかかわる重大な副作用として血栓症があります。
血栓症になっている兆しがあれば、すぐに気付けるように日頃から体調を気にしておきましょう。
詳細
重大な副作用として血栓症があり、死亡例の報道もあったので怖いと思われる方が多いのは確かです。しかし、もともと血栓症を起こす可能性は妊娠もピル服用もない人で1万人中1~5人なのが、ピルを服用している人は1万人中3~9人と、“1万人中3人程度”しか増えません。妊娠中だと1万人中5~20人、産後12週までは1万人中40~65人と妊娠した時の方がピルを服用している時よりも血栓症のリスクが高い(2012年FDA)ので過度に血栓症を恐れる必要はありません。
また、服用開始後3か月以内が14.3人/1万人と最も多く、その後徐々に減少して2年目で7.3人/1万人、3年目で6.3人/1万人、4~5年目で4.5人/1万人とまで減少していくことがわかっています。(OC・LEPガイドライン2020年度版より)
血栓症が起こっている兆しとして、「激しい腹痛・激しい胸痛・激しい頭痛・目の見えにくさや舌のもつれ・ふくらはぎの痛み」があります。これらが起こった場合にはすぐにご相談ください。常にこれらの症状がないかを確認しないといけないという意味ではなく、身体の状態を常日頃気にしておきましょう。そうすれば血栓症だけでなく様々な病気の早期発見ができますので、これを機に自分の体に目を向けてみてはいかがでしょうか?また喫煙者の方が血栓症発症の可能性が高くなるので喫煙されている人は本数を減らす、可能なら禁煙をおすすめします。また、ピルの服用を中止してまた再開する、を繰り返すと血栓症のリスクが増加します。もし中止したい気持ちになっても自己中断せず一度相談ください。
一方、乳がん、子宮頸がん以外のがんはピルを服用することでリスクが下がります。
詳細
①乳がんについて
相対危険度を調べたデンマークの研究ではわずかに乳がんの発症リスクが上昇するという結果がでていますが、1年間で約7690人あたり1人の増加とわずかです(OC・LEPガイドライン2020年度版より)。
もともと女性が発症するがん1位の乳がん(死亡原因では大腸がんに次いで2位)は10万人に140.8人の割合で毎年発症しています(2017年全国がん登録罹患データ)。ピルを服用していない方でも普段から乳がんの早期発見ができるようにしておきましょう。乳がんの発症率は30歳を超えたころから増えるので30歳を超えた方は定期的に乳がん検診を受けることをおすすめします。30歳までの方は乳がん自己触診を日頃から行うと安心です。
神戸市「乳がん自己触診の方法」
②子宮頸がんについて
子宮頸がんの可能性もピルを服用すると上昇すると言われています。子宮頸がんの原因はHPV(ヒトパピローマウイルス)感染が原因であることがわかっていて、HPVはコンドームを使用しない性行為で感染します。ピルを服用していると避妊効果があるからとコンドームの使用が減ってしまうせいで子宮頸がんが増えると考えられます。ピルを服用していてもコンドームを必ず使用して子宮頸がんの予防をしましょう。また、ピルを服用していること自体はHPVの感染リスクは増加させませんが、すでに感染したHPVの排除率は低下することもわかっていますので、定期的な子宮頸がん検診を受けましょう。
③他のがんについて
一方、子宮体癌や卵巣がんなどの他のがんのリスクは、服用することで下がることがわかっています。内膜が薄くなるので子宮体癌や卵巣癌のリスクを下げられます。
飲み合わせなどについて
病院で処方される抗生剤のなかには、ピルの作用を減弱させるものがあるため、医師にかかる場合は「低用量ピルを服用している」と伝えてください。
薬草の「セント・ジョーンズ・ワート(セイヨウオトギリソウ)」を含むサプリメントは、ピルの作用を減弱させてしまいますので、併用に注意が必要です。
妊娠などへの影響について
妊娠を希望する場合はピルの服用を中止すれば通常は自然な排卵サイクルが戻ってきますので、将来の妊娠には影響ありません。服用をやめたのになかなか妊娠しない場合はピルを服用していた影響ではなく他の原因と考えるべきでしょう。
服用初期(1~3ヶ月頃)でのマイナートラブル
服用継続中でのマイナートラブル
服用方法について
避妊効果が下がったり、不正出血が起きたりするので気をつけてください。
緊急避妊薬を服用するかどうかは下記を参考にしてください。
①直前の服用から48時間経過していない場合
緊急避妊薬は通常必要ありません。しかし、同じシートの中ですでに飲み忘れがある場合、または前のシートの最後の実薬の週に飲み忘れがある場合は緊急避妊薬の服用を考慮します。
②直前の服用から48時間以上経過してから服用した場合
1列目に飲み忘れ、かつ直前5日以内に性行為があった場合は緊急避妊薬の服用を考慮します。
3列目に飲み忘れた場合には休薬期間を取らずに今のシートの実薬が終了したらすぐに次のシートの服用を始めてください。
①服用後3時間以上経過してから嘔吐・下痢があった場合
3時間たっていればほとんど吸収されていると判断します。次の服用は翌日の普段通りの時間でOKです。
②服用後3時間以内に嘔吐・下痢をした場合
できる限り速やかにもう1錠服用して次は翌日の普段通りの時間に服用してください。
③24時間以上嘔吐または重度の下痢が続いている場合は、十分に吸収されていない可能性があるので一旦服用を中止します。症状が回復したら前述の飲み忘れた場合と同じ対応をします。
休薬期間をなくしてしまうと出血のタイミングがわかりづらいので抵抗がある方には休薬期間短縮法(本来の休薬期間より短くする方法)から始めることも可能です。ご希望の場合は医師に相談してください。
ピル服用中に緊急手術を受けることになった場合は血栓症予防を十分に行う必要があるので、ピルを服用中であることを必ず伝えてください。(緊急時でなくても他の医療機関にかかる時はピルを服用していることを必ず伝えていただくのと何ら変わりありませんが、緊急時には伝え漏れてしまう可能性もあるので念のため強調しておきます。)
基本的には、自然なホルモン状態を保ったままなので体には影響はありませんが、ピルを継続的に服用されている方には1年に1回ピル検診をすすめています。エコー検査で子宮卵巣に病気や異常がないか、ホルモン検査で異常がないかなど、ご自身の現在の体の状態を知るためにも診察をおすすめします。
その他
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ピルのパール指数(100人の女性がその避妊法を使用して1年間に何人妊娠するか→低いほど避妊効果が高い)は飲み忘れなく理想的に使用した場合は0.3で、コンドームやリズム法と比較すると避妊効果は高く、女性避妊手術(卵管結紮)や薬物付加IUDに匹敵しています。しかし、飲み忘れや体調不良によるリスクを考慮するとパール指数は9まで上昇します(10%近くの人が妊娠)。これらの指数を考慮し、さらに性感染症の予防、前述の子宮頸がん予防のためにもコンドームの併用を当院ではおすすめしています。
詳細
ピルを服用しているおかげで痛み物質の原因といわれているプロスタグランジンの分泌を減少されていると言われています。プロスタグランジンとは、人間の体内にあるホルモンや神経伝達物質の中のひとつであり、生理中の主な働きは、子宮を収縮させ剥がれ落ちた子宮内膜を血液と共に経血として体の外にスムーズに排出させています。このプロスタグランジンの分泌量が多いと、過剰に子宮を収縮させてしまうため、一般的に生理痛といわれている下腹部の痛みや腰痛などを引き起こしてしまうのです。服用をやめてしまいますと以前の生理痛のある状態に戻る可能性があるので継続して服用するのをお勧めします。
詳細
現代女性は、昔の女性に比べて出産回数が減っています。そのせいで一生のうちの月経回数が昔は約50回だったのに対して私たちは約450回と大幅に増えました。ここ40年ほどで、子宮筋腫・子宮内膜症・月経前症候群・子宮体がん・乳がん・卵巣がんなどの婦人科系疾患が約30倍も増えましたが、それは生理と排卵の回数が激増し、子宮や卵巣が休めなくなったことと無関係ではありません。このように現代女性の生理が多いこと自体が不自然です。ピルを処方される疾患の子宮内膜症や月経困難症、多嚢胞性卵巣症候群はいわば現代病と言えるでしょう。