生理のトラブル
6つの症状から考える原因や治療について
生理にまつわるトラブルには生理痛だけではなく、生理不順や生理前のさまざまなトラブルがあります。痛みを感じたりと、程度の差こそあれ、女性の多くが体に何らかの変調を感じるのではないでしょうか。また、疲れやストレスなどを抱えることによって症状が重くなる場合もあり、生活改善などにより症状をやわらげる工夫も必要です。あなたは以下のような生理トラブルを抱えていませんか。もし思い当たることがあれば、ぜひ当クリニックまでご相談ください。
生理痛
生理痛の原因は、大きく分けて2つあります。
器質性の生理痛
子宮や卵巣の病気が原因となって起こる痛みで、最も一般的な病気としては、子宮筋腫や子宮内膜症などがあります。20歳以上の女性の5~6人に1人は、何らかの子宮・卵巣の腫瘍があるといわれています。
器質性の場合は機能性に比べて痛みが強いことが特徴です。毎月激しい生理痛がある場合は、まずは子宮・卵巣の病気を疑い、婦人科を受診しましょう。
機能性の生理痛
明らかな子宮や卵巣の病気が認められないものの痛みがある場合で、プロスタグランジンというホルモンに似た物質の過剰分泌が原因といわれています。
月経の1週間ぐらい前から子宮内膜のプロスタグランジンが増加して、子宮の筋肉を収縮させたり、血液中に入りこむことで痛みの原因になるといわれています。
治療法
薬物療法
- OC(低用量ピル)…プロスタグランジンの過剰な産生を抑えます。
- 鎮痛薬…できてしまったプロスタグランジンを分解します。
- 漢方薬…血や気の流れを改善することで痛みを改善します。
プロスタグランジンを増やすのは、ストレス、冷え、むくみといった生活習慣も大きく関係しています。冷たいものを飲みすぎる、薄着などをあらためて、プロスタグランジンを増やさない努力をしましょう!
生理不順
症状について
生理の周期は、「前の生理が始まった日から次の生理が始まる前日までの日数」で表します。この日数が25~38日の間であれば生理は正常であり、24日以下、あるいは39日以上の場合を「生理不順」といいます。
また、生理の持続日数については、3~7日が正常です。常に2日以内で生理が終わる人や8日以上続く場合も、生理不順の中に入ります。
原因
下記に挙げたような大きな負担が体にかかると、視床下部から正常な指令が出なくなったり、自律神経の乱れからホルモンの分泌に影響が出て、生理不順が起こりがちです。
- 過度のストレス
- 過度のダイエットにともなう急激な体重減少
- 急激な体重増加
- 激しい運動、スポーツ
また、体の特定の器官に異常がある場合も、生理不順が起こる場合があります。
- 下垂体の機能の異常
- 卵巣の異常
- 甲状腺機能亢進症・低下症
- 薬の副作用(特に抗鬱剤などの向精神薬)
治療法
OC(低用量ピル)
ホルモンをコントロールすることで、生理を正常にします。
漢方薬
血や気の流れを改善することでホルモンのバランスを整えます
生活習慣改善などの対処療法
- 色々な食材をバランス良く摂取する
- 暴飲暴食・偏食をしない
- 刺激の強いものを摂り過ぎない
- お酒・アルコールを飲み過ぎない
- からだに大きな負担をかけない
- 疲れやストレスをためすぎない
- 過度の運動やダイエットはせず、規則正しい生活をおくる
- 禁煙する
- 睡眠時間をしっかりとって睡眠不足を解消する
関連ページ
生理不順は、生理周期だけではなく、生理の持続日数も含めて考えます。ちょっと長く生理が続くけれど、毎月きまった周期に生理が来ているから大丈夫と思っている方は、思わぬ病気が潜んでいる可能性もありますので、要注意です。
日常の疲れやストレスは、さまざまな細菌感染を引き起こしやすくなります。忙しくても、睡眠時間の確保と1日3食、栄養のあるものを食べることで免疫力を高め、痛みの原因を未然に防ぎましょう。
月経量の異常(生理中の出血量の異常)
症状について
生理の量は多すぎても、少なすぎても問題があります。例えば、一番多い日に1日1枚のナプキンで問題ない人や、逆に、多い日用のナプキンが3時間ほどで溢れてしまうといった場合は、月経量の異常と考えられます。
原因
月経量が少なすぎる場合
一番生理が多い日でも、1枚のナプキンで十分という場合は、「無排卵性周期症」といって、排卵が起こらずに破綻出血を起こしている場合があります。また、若い時は普通だったのに、30代後半ぐらいから、このような現象が起こる場合もあります。
月経量が少なすぎると感じる場合は、一度診察を受けることをお勧めします。
月経量が多すぎる場合
月経量が一番多い日に、通常は4~5時間は使用できる多い日用のナプキンが、3時間で漏れを起こす、または、レバーのような固まりが出るといった場合は、月経量が多いと判断できます。多すぎる月経量は、ホルモンバランスの異常、もしくは、子宮筋腫やポリープといった子宮・卵巣の病気の可能性があります。
治療法
治療法は、生理痛の場合とほぼ同じです。子宮や卵巣の病気がある場合は手術などが必要な場合もありますが、基本的には薬物療法、対症療法で対応します。
生理不順は、生理周期だけではなく、生理の持続日数も含めて考えます。ちょっと長く生理が続くけれど、毎月きまった周期に生理が来ているから大丈夫と思っている方は、思わぬ病気が潜んでいる可能性もありますので、要注意です。
ホルモン剤でホルモンバランスをいくら整えても、やはり毎日の生活習慣は大切です。特に女性は体を冷やすとさまざまな不調が起こりやすいので、薄着や冷たいもののとりすぎなどに十分注意してください。
生理前トラブル
症状について
生理前、3~10日の高温期の間、黄体ホルモンが活発に働くことによって起こる精神的、あるいは、身体的症状で、生理が始まるとともにおさまる症状です。
身体的症状
- 頭痛
- 下腹部痛
- 乳房痛
- 胸の張り・痛み
- むくみ
- 腰痛
- 便秘
- 眠気
精神的症状
- イライラする
- 落ち込み
- 不安
- 睡眠障害
原因
黄体ホルモンの活性化、または、多量の分泌が原因と考えられています。きちんと排卵のある証拠ともいえますが、日常生活に支障をきたすようであれば、治療を考えましょう。
治療法
OC(低用量ピル)
黄体ホルモンをおさえる働きをします。
薬
痛みを抑える鎮痛剤、精神症状に対しては精神安定剤など、それぞれの症状に合わせて薬を服用します。
漢方薬
体質改善を目的として、個人の症状に合わせて服用します。
生活習慣改善などの対処療法
主に食生活の改善など
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多嚢胞性卵巣症候群
多嚢胞性卵巣症候群(たのうほうせいらんそうしょうこうぐん)という名前だけを聞くと、大変な病気のように感じる方もいらっしゃるかもしれませんが、月経のある女性の5〜8%にみられ、実は婦人科系疾患の中でも最も患者数の多い症状の1つです。
多嚢胞性卵巣症候群と大変長い名前であることから「polycystic ovary syndrome」という英語の病名の頭文字をとって、PCOSと呼ばれます。
PCOSはいわゆる排卵障害ですが、治療をしないままにしていると年々障害が進行していきますので、気になる症状がある方は、早めに診察を受けるようにしてください。
多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)とは
多嚢胞性卵巣症候群(PCOS: polycystic ovary syndrome)とは、若い女性の排卵障害として多くみられる疾患で、卵巣の中でできる卵胞の発育が遅いことに加え、ある程度の大きさになっても排卵されず、卵巣内に多数の卵胞がたまってしまう疾患です。
PCOSの患者さんの卵巣を超音波で見てみると、10mmくらいの同じような大きさの卵胞がたくさんできていて、卵巣の外側に1列に並び、なかなかそれ以上大きくならないことが特徴で、ネックレスサインと呼ばれています。
PCOSの症状として最も多いのは排卵障害(70%)ですが、その他にも高プロラクチン血症(17%)、肥満(14%)、多毛(10%)、ニキビ(2.5%)などがあり、さまざまな症状に悩む女性が多くなっています。
多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の原因
多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の原因は諸説あり、それらが複数重なりあって発症するのではないかと考えられています。
その一つにインスリン抵抗性があります。インスリン抵抗性とは、肝臓や筋肉、脂肪細胞などでインスリンが正常に働かなくなった状態のことをいいます。
インスリンは、膵臓から分泌されて血糖値を下げるホルモンですが、脳下垂体から分泌されて排卵を促すホルモン「LH」の分泌を高める作用もあります。インスリン抵抗性があると、インスリンをうまく使用することができず過剰に分泌されるため、結果としてLHとインスリンが正常より強く卵巣に作用する環境が作られます。
LHとインスリンは卵巣での男性ホルモンの生産を促進しますので、卵巣内が男性ホルモン過剰となり、これが排卵障害を引き起こす原因といわれています。また、この状態になると卵巣は排卵を促そうとして、更にLHの分泌を高めるため、男性ホルモン分泌量も高まり悪循環となります。PCOSの症状として多毛やニキビが挙げられるのはこのためです。
PCOSは治療せずにいると年々排卵障害が進行していきますので、長期的治療が必要となります。
多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の診断基準
①月経異常
稀発月経、頻発月経、無排卵性周期症、無月経
②多嚢胞性卵巣(たのうほうせいらんそう) 図1
超音波検査で両側卵巣に多数の小卵胞がみられ、少なくとも一方の卵巣で2〜9mmの小卵胞が10個以上存在します。
③LH基礎値高値かつFSH基礎値正常 図2
(LH≧7mIU/ml かつ LH≧FSH)
- 正常な場合…FSH>LH
- FSH=卵巣を刺激して卵胞を成熟させるホルモン
- LH=排卵を促すホルモン
上記、1〜3の全てを満たす場合を多嚢胞性卵巣症候群と診断します。
または、血中男性ホルモン(テストステロン)が高値である時もこれに当てはまります。
多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の治療法
妊娠を望む場合
- 排卵誘発剤服用による排卵誘発法
- ※当院では実施しておりませんので、不妊治療専門クリニックへご紹介となります。
妊娠を望まない場合
- 低用量ピルの服用
PCOSには子宮体がん、乳がん、卵巣がん、肥満、糖尿病、心血管系疾患のリスクを伴いますが、低用量ピルの服用によりリスクを低減することができます。また、排卵抑制により卵胞の増加を防ぎます。
多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)は、原因がはっきりと分からず、一つの体質であるため、これをすれば大丈夫という予防法はまだありません。しかし、糖代謝との関連が深いと考えられているため、甘いものを毎日大量に食べている人は控える、肥満にならないように定期的に運動するなど、生活習慣を改めることが予防法の一つです。
たとえ多嚢胞性卵巣症候群による排卵障害が起きていても、治療によって排卵をコントロールすることもできます。放置すると症状は悪化しますので、いざ妊娠したいとなった時に長期間の治療が必要になったり、強い薬を使わなければならなくなることを避けるためにも、気になる症状があれば、早めに当クリニックを受診してください。
高プロラクチン血症
プロラクチンは、脳の下に付いている下垂体で作られるホルモンです。主に母乳に関係するホルモンで、乳腺を発育させたり、乳汁を作るなどの作用があります。
プロラクチンはほ乳類に必要不可欠なホルモンであり、出産後に向けた体を作るために分泌されます。そのため、授乳期間は高値になりますが、授乳期間が終わると元の数値に戻り、再び妊娠できる体になります。
しかし、授乳中ではない妊娠前の女性でもプロラクチンの数値が非常に高くなることがあります。授乳期以外でプロラクチンの数値が高い場合、妊娠しにくくなるほか、さまざまな症状を引き起こします。
高プロラクチン血症とは
高プロラクチン血症とは、プロラクチンというホルモンの血中濃度が高くなる疾患です。病院の血液検査でプロラクチンの濃度を測定し、妊娠していない状態でプロラクチンの血中濃度が30ng/mlを超えると高プロラクチン血症と診断されます。
血中のプロラクチン値=正常月経周期の女性は30ng/ml以下
高プロラクチン血症の症状
高プロラクチン血症の状態になると、妊娠しにくい状態になることに加え、以下のような症状が現れることがあります。
ただ、目に見えない症状や自覚症状の無い場合も多く、妊娠を望んでいるのになかなか妊娠できない場合は、疑ってみるべき病気の一つです。
- 生理不順: 無月経、稀発月経、不正出血
- 排卵異常: 無排卵、着床障害
- 乳汁分泌: 乳首から汁が出ること
- 胸の違和感: 胸の張り、胸のしこり感
- その他: 骨粗しょう症など
高プロラクチン血症の原因
1年以内に妊娠を望まない場合
- 何らかの肉体的、精神的ストレス など
- 薬の影響 ドグマチールなどの胃薬、精神安定薬 など
- 多嚢胞性卵巣症候群
- 甲状腺機能低下症
甲状腺ホルモンの分泌が低下して活動性が低下する病気です。圧倒的に女性に多く(男女比は1対10以上)、40歳以後の女性では軽症なものも含めると全体の5%にみられます。 - 下垂体腺腫(プロラクチン産生腫瘍)
下垂体腺腫とは、脳下垂体にできる脳腫瘍の一種です。腫瘍といっても良性でおとなしいため、多くは治療する必要がありません。
その下垂体腺腫の約4割を占めるのが「プロラクチン産生腫瘍」で、女性に圧倒的に多く、高プロラクチン血症を引き起こします。
高プロラクチン血症の治療法
1年以内に妊娠を望まない場合
● 低用量ピル(OC)による治療
乱れたホルモンのバランスを整えていきます。生理不順や不正出血は、多くの方が3ヶ月以内に改善します。
継続して服用することにより、妊娠しやすい体に改善していきます。
● 漢方薬、サプリメントの内服
低用量ピルが服用できない方や、低用量ピルと併用して使用することがあります。
1年以内に妊娠を望む場合
プロラクチンを下げる薬を服用し、排卵しやすい状態に改善します。さらに排卵しやすくするために、排卵誘発剤を併用することもあります。
※当院では実施しておりませんので、不妊専門クリニックへご紹介となります。
高プロラクチン血症の対策には、治療や投薬だけでなく、日常生活の中でホルモンバランスを整える習慣に変えることも重要です。
適度な運動やゆっくりした入浴、趣味の時間をもつなど、体や心を休める時間を意識して取り、ストレスを解消すること、しっかりとした睡眠と栄養バランスの良い食事を心がけるなど、高プロラクチン血症を克服するために日常生活の見直しを行いましょう。
プロスタグランジンが過剰に出続けると、その刺激で子宮筋腫ができたり、卵巣が子宮内膜症になったりします。今、目に見える病気がなくても、生理痛は婦人科の病気の原因になりますので、注意が必要です。